“A good English speaker is NOT necessarily a good communicator!”
前回は英語を流暢に話す人が決して、コミュニケーションの達人とはなりえず、逆に英語がたどたどしくても、とても上手に現地のアメリカ人従業員とコミュニケートしている駐在員の方がいる、というお話をしました。そのために、10のポイントをご紹介しましたが、今回はその一つ一つについて個別に見ていくことにしましょう。
1. 相手の言うことをまず、しっかりと聞こうとしている
最近「傾聴力」という言葉が、頻繁に聞かれるようになりました。人の話を深く理解する、ということは、まさにこの傾聴力の問題ですが、多文化な環境の中で人をマネジメントする場合、傾聴によって深く相手の真意を理解する努力がことさら重要になってきます。
その理由のひとつが、言語によって同じ言葉を使っていてもその意味が異なる事が多々あるからです。よく取り上げられる例では日本語での「そこをなんとか!」などという表現は、英語にはないものですし、それを無理やり英語に変えて話したところで意味を成しません。
つまり、言語は異なる言語に変わったときに、一対一対応で意味が相手にそのまま通じるわけでは決してない、という認識がとても大切になります。さらに、そこに前後の文脈やその時々の状況、そして相手の感情などが複雑に絡まりあうと、なおさら発する言葉が「額面通り」ではないことが多くなります。
つまり、相手が言葉を解して何を言おうとしているのか、伝えようとしているのか、その内容をどれだけ正確に把握する能力があるかが、多文化マネジメントでは、ことさら大切になってくるというわけです。その技術は、まず慎重に、偏見のない頭で聞く事が重要です。相手に対する感情、偏見、思い込みといったものに邪魔されず、どれだけ大切な情報を得る事ができるか?という姿勢も、傾聴を深めるために必要なメンタリティです。
2. 解らないことは、その場ではっきりと自分の言葉で確認している
自分の母語ではない言葉でコミュニケーションをとる場合、当然わからないこと、あいまいな事がたくさん出てきます。こういった場合にわからない事は「後で聞く事にしよう」と、その場では丸く治めてしまい、事後にいろいろ探りを入れたり聞きまわったりするのは、いかにも日本的です。
こういったやり方は(特に欧米では)背後で何かを画策していると取られることもあり、不必要に相手の不信感を招く事になりかねません。わからない事はその場で「もう一度説明してください」「それは、どいうことことですか」と確認する行動が、相手に「この人は私の意図を真剣に汲み取ろうとしている」という意思を伝える姿勢となります。勇気がいることですが、その場で「確認」することは、相手の信頼感を得る重要なスキルのひとつであることを覚えておく必要があります。
3. 自分の言いたいことは、わかりやすい簡単な言葉で丁寧に説明する
伝えたい事柄については、「簡潔」かつ「丁寧」に説明することが重要なことは、多文化マネジメントでは特に大切です。日本的な文化の中では、「十まで言うな、言わせるな」と阿吽の呼吸で仕事を進めるまでにビジネス環境や対人関係を整えることが大切とされます。しかし、多文化なビジネス環境では、この前提は捨て去る覚悟が必要です。
日本以外のビジネス社会では「言う事で正確に伝える」ことが前提になります。これは、異なる文化や言語を背景としたさまざまな人たちが働く環境では、同一文化を前提とした「言わずもがな」というような共通認識が生まれにくい事情を考えれば、ごく当然といえるでしょう。
また、トップになればなるほど情報をわかりやすく発信することが管理職の役目と考える文化も多く、特にこのスタイルはグローバル企業では共通の価値観となりつつあるといっても過言ではありません。
何を言いたいのか、言うべきなのか、それをいかに簡潔、明瞭に、そして丁寧に伝えられるかを常に考えながら仕事を進めるメンタリティは、多文化組織で衝突を回避する大きなポイントです。
4. 相手に対しても常に説明を求めている
また自分が理解できない場合、その背景がわかりにくい場合、冷静に相手に対して説明を求める姿勢はとても重要です。このときに大切なのは「なぜ?」との問いかけは、攻撃性を帯びる可能性があるということです。日本では根本原因の追究のために「なぜ」を5回問い直せ、という手法はよく知られています。一方、これを忠実に英語に直した場合、「why?」と問い直すことになりますが、英語ではこの「why?」は基本的に相手を精神的に防御に追い込む言葉とも捉えられており、攻撃的に聞こえてしまう事さえ少なくありません。よくアメリカ人からは言い訳の言葉しか聞けない・・・と嘆く駐在員の方がいますが、相手を防御に追い詰める言葉を不用意かつ無意識に使い、相手からは「言い訳」しか引き出せていないケースも多々あるように見受けられます。英語で相手に説明を求める場合、単に「why?」と問うのではなく、「Could you exmplain me how you came to this conclusion?」など、(英語の文脈で)相手を追い詰めない言い方を学ぶ必要があります。
5. 自分の力で表現できない時は、他人の手を借りて意思疎通を試みる
第二言語で複雑なビジネスのコミュニケーションをするわけですから、自分の言語能力では太刀打ちできない状況に直面する事は日常茶飯事でしょう。このような場合、相手が理解できていない、また、自分もしっかり説明しきれない、とわかったら、すぐに第三者の助けを求め、より正確に伝えるための最善の努力をする事が最適である事はいうまでもありません。ミーティングや会議の重要性に応じて、同僚で英語の達者な人間の助けを借りる、通訳を入れるなど、組織内で言語伝達が柔軟にできるバックアップ体制を常にとっておく事も重要です。
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