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日本人の英語はなぜ伝わらないのか?

Taka Muraji 村治孝浩

Updated: Oct 5, 2021


日本人の英語力の問題については、長い間問題として議論されていますがいまだ状況はあまり改善されているとは言いがたい状況です。とにかく、東アジア諸国の中でも、日本人の英語の「苦手力」については文句なく誇れるところというのが実感です。日本人のかくも使えない英語の理由はどこにあるのか?今回は「伝える技術」という視点から、日本人の英語について考えてみたいと思います。


英語が生でわかるエグゼクティブ比率は日本が最低?

ある米国人トレーナーと東アジア諸国のグローバライゼーションについて話をしていたときのことです。彼がこんなことを尋ねてきました。

「タカ、日本の管理職の英語力については、よくわかっていると思うけれど、僕の実感レベルではどれくらいだと思う?」

最初、質問の真意が良くわからず、一瞬きょとんとした私に彼がこう続けます。

「たとえばね、日中韓の参加国のエグゼクティブに話をしたとしよう。仮にそこに10人のエグゼクティブがいたとしたら、中国のエグゼクティブは8人が僕の話す内容をほぼ正確に理解している。韓国は恐らく6名ぐらいだろう。でも・・・日本は・・・」

「日本は・・・・??」

「恐らく、2~3人程度だ・・・。日本贔屓の僕としては、もう非常に悲しい!この状態、何とかしないと、少なくとも語学の面からの国際理解とグローバライゼーションでは確実に日本は東アジア諸国の中でも後れを取るよ」

なんともショッキングな一言でした。ただ、同時に私が経験上感じていた経験値は、これに限りなく近いものだったので、それが改めてアメリカ人トレーナーの口から聞かれたことに別の意味でショックだったのです。確かに、こちらで日本の駐在の方々とやり取りをしていると、その英語力には限界を感じることが多く、これは何とかしなくては、と思う場面に出くわすことは少なくありません。派遣前にTOEICを実施し、それに従って派遣社員を選抜している企業も見られますが、実際のところはそういう企業はごく稀。ほとんどは英語力さえ考慮に入れず、本社サイドでの様々な事情によって、一方的に選抜されて送られてくる駐在員が少なくないのも実情です。

現地の業務では当てにならないTOEICスコア

さて、アメリカに派遣される駐在員の中には、TOEICを事前に受けた上で渡米する駐在員も多いのですが、これがまた混乱を招く原因のひとつとなっています。日本人の駐在員のTOEICのスコアはまさに玉石混交。点数で言えば、下は400点台から上は900点までばらつきの幅も非常に大きいのが現実です。

さらに、がっかりな事実として・・・TOEICのスコア伸ばしに必死になっている方々にとっては、非常に残念で、こんなことを言うのはとても心苦しいのですが・・・TOEICによるスコアは、実際の業務においてはほとんど「使えない指標」となっているという事実をご存知でしょうか。

その理由は、まずTOEFLが主に文法と読解力を基準にした評価基準となっており、「話す」と「聞く」事に対して、重点が置かれていないことにあると言えます。TOEICの聞き取りは、ある状況に従って非常に理路整然としたスキットの中で会話が進んでいくものの中から、答えを選ぶ形式です。実際の会話の流れというのは、実はこれほど論理的ではないことも多く、いろいろ脈絡のない言動が飛び交ったり、言葉の構成が理路整然としてないことがほとんど。TOEFLの受験経験者の方と話をしていると良く聞かれるのは「テストでは推察でだいたい答えがわかるんですが、実際の会話はあんなにすっきりして明解じゃないから、推察すら出来ないんですよ!」というものが少なくありません。


想像以上のスピードで話すネイティブスピーカー

ネイティブスピーカーの発話のスピードの速さは私たちの想像以上です。ある言語学者のリサーチによれば、平均的ネイティブスピーカーの発話スピードは1分間120語から200語程度というデータが出ています。一方、私たちノンネイティブスピーカーが話せる一般的なスピードは、せいぜい50~70語程度と測定されています。つまり、単純に考えても「聞く」事に対しては、私たちの耳では、ネイティブスピーカーの話すスピードでは、70~130語が聞けていない・・・という絶望的な状況がここに浮き彫りになってきます。TOEICでは、この辺の事情がどれくらい考慮されて、ネイティブスピーカーの言葉遣いとスピードが反映されているのでしょうか。

もうひとつの問題、そしてこれが最大の問題、それは「話す」ことです。TOEICでは残念ながら話すこと、つまり「オーラルスキル」は試されません。残酷なことに、アメリカに派遣された駐在員の中ではTOEICのスコアが850点、または900点以上という高得点にも関わらず、ほとんど話せない!という人が実際珍しくないのです。日本人の「座学の英語」が、しみじみと現れた結果です。しかし、「英語」がビジネスの世界では世界標準言語となり、日本語が通じない駐在先では「英語」による意思疎通が必要不可欠であることは今さら言うまでもありません。


人前で話せない日本人の英語はどこから?

文科省もこの事実を少し重く感じたのか、ようやく「使える英語」を目指して英語教育の改革に乗り出しましたが、ただそれが「早期教育」かつ「現場で英語を使って教える」という突飛な発想に飛躍しているのは、驚きを禁じえない、というのが正直な感想です。私の正直な感想では、日本人の「使えない英語」の一番の問題は次の3点に代表されると言い切れるでしょう。それは、


1.人前で話す機会と訓練が不足している

2.「伝える」ことをしっかり考えて話す技術が身に付いていない

3.「理解」される話に展開する技術が養われていない


もう少し分かりやすく言い換えてみましょう。

1番目は「聞いていて安心できる態度と発声」、

2番目は「聴衆に心が伝わるアプローチ、話し方」、

そして、3番目は「聞いて理解しやすい論理」ということになります。

つまりこういったことをきちんと教える、または学べる環境がない限り、いくら英語を話そう!とお尻をたたいたところで、国際舞台でしっかり使える英語力は育ちません。そう、既に勘の良い方は、既にお気づきでしょう。これは、英語教育だけの問題ではないのです。言葉を変えれば、これは日本人としての「表現力」の問題ということができます。つまり、こういったこと「国語」の時間にしっかりと教えられているかどうかが、英語教育に大きな影響を与えるということなのです。ところが、日本の国語教育では、英語同様に読み書きに力を入れても、発言力やプレゼンテーション力を高めることに主眼が置かれているようには思えません。英語は英語、国語は国語、と切り離して考えていては日本人としての世界へ通じる「表現力」は育たないと言うのはごく当たり前のことではないかと思うのですが・・・。

さて、次回は、なぜ日本人の私たちが「話す」ことに対してさほど注力しないのかを考えてみたいと思います。



 
 
 

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