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アメリカ人はなぜ逆境下でもポジティブでいられるのだろう? アメリカのビジネスマインド

Taka Muraji 村治孝浩

フロンティアと移民が築き上

げたアメリカンポジティブネス

アメリカが底の見えないリセッションに喘いでいた2009年前後。リーマンショックに見舞われいたアメリカで、驚いたことが一つあります。それは、不況下でも、意外に人々の顔つきが明るいことでした。アメリカで暮らしていると、苦境下での人々の明るい表情に気持ちが随分救われることが少なくありません。明るい、というよりも「前向き」と表現したほうが良いかも知れません。今日は調子が悪くても、明日はどうなるかわからない。だから、明日のために、今日を頑張ろう。そういう前向きな言葉を耳にすることがとても多いのです。


アメリカ人の心に生きる「Tomorrow is another day.」

車で仕事へと向かう途中、ラジオを聴いていると、リセッションの中で節約のために船上生活を送る女性の話が紹介されていました。職を失った女性は、年末に買った200万円弱のボートに移り住むことにしたとか。 月々の家賃は、ボートの係留費用数百ドルのみ。もちろん、住空間は極端に限られています。しかし彼女はいたって明るく「いずれ経済が回復したら、またもとの生活に戻るわ!」とコメントしています。そこには、いずれは以前の生活にまた戻れる!という確信のようなものを感じはすれ、不況に打ちのめされた暗さなどは微塵も感じられません。この話は、アメリカ人のタフネスと臨機応変さを物語るエピソードといえるでしょう。

アメリカ人はよく「Tomorrow is another day!」という言葉を使います。映画「風とともに去りぬ」で、主人公のスカーレットがこぶしを握り締めて「After all, tomorrow is another day!」「I’ll never be hungry again」と絞りだすようにはく台詞は、あまりにも有名ですが、これはアメリカ人がもっとも心打たれるラインのひとつとも言えるでしょう。日本語では「明日は明日の風が吹く」と訳されることも多いこの一言、実は日本の成り行きに任せよう!というニュアンスとは少し違うニュアンスが込められています。どちらかというと「今日頑張れば明日はどのように転がるかわからない」というイメージでしょうか。言い換えれば、最大限の力を持って今日を生きれば、明日も自分の力で変えることが出来る、という非常に前進的なメンタリティです。これはキリスト教精神の「神は自らを助けるものを救う」という精神的バックボーンも大きく影響しています。


サバイバルの歴史を経て身に付けたポジティブネス

以前のエッセーでもご紹介したとおり(こちら)、アメリカ人の歴史はサバイバルの歴史でした。1620年に現在のアメリカ大陸に上陸したピューリタンは、延々と広がる広大な荒地にこの国の礎を築き、その240年後には西部開拓へとサバイバルを続けます。ピューリタンにせよ、西部開拓で西を目指した人々にせよ、彼らの目の前には約束されたものは何一つありませんでした。その土地に対する情報も知識も持たず、ある意味命を賭けた無謀なギャンブルによって、未知の土地にまい進した人たちがアメリカ人だったのです。当然のごとく、明日の生活や自分の命の行く末さえ知る余地もありませんでした。それでも、自分の力と未来への可能性をひたすら信じ、そして社会や家族を引っ張り新しい土地へと歩みをとめることはなかったのです。この気質は当然のごとく、「すべてを明日に託し」「自分の力を信じる」強烈な前向きのメンタリティを培うことになります。



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(カンザスで暮らす初期の西部開拓の家族)


アメリカ人のこの「常に前進」というメンタリティは、新しい土地を目指したピューリタンや西部開拓で西を目指した人々によってのみ作られたものではありません。この国を後々目指した移民たちにも、大きく影響されることになります。18世紀は主にイギリスからの移民で占められたアメリカ社会でしたが、19世紀になってアイルランドの大飢饉による未曾有のアイルランド人がアメリカに押し寄せ、その後19世紀後半から20世紀前半にかけては中国、ポーランド、イタリアなど東ヨーロッパ、南ヨーロッパから移民がぞくぞくとアメリカに流入します。その流れは、現代にも続き、1960年以降は東南アジア、韓国などから、そして現代はアフリカやメキシコから今でも多くの移民がこの国に経済的、また政治的な安定を求めてやって来ています。



















(大挙して到着したアイルランド移民たち~1900年初頭)



German farm















(農業に従事した日本人移民~たち)


これらの移民の1世は、ほぼ例外なく非常に厳しい生活を余儀なくされました。自国の飢饉のために国を離れざるを得なかったアイルランド人は、ニューヨークのスラムで一から生活を立ち上げなければなりませんでした。映画「ゴッド・ファーザー」は、イタリア系移民の苦悩の歴史がその物語の背景になっていますし、中国からの移民1世は、大陸横断鉄道の鉄路敷設のために「苦力(クーリー)」と呼ばれ、過酷な労働に従事させられました。日系移民は、第2次大戦中は敵性国民のレッテルのもとアメリカ市民であるにもかかわらず、苦労して築き上げたすべての財産を没収され、収容所に送られた過去を持っています。



(収容所への専用バスを待つ日系アメリカ人)


移民1世の彼らが例外なく生きる力としたのは「明日への夢」でした。自分たちの世代は苦労をしても構わない。でも子供たちの世代には、何とか良い暮らしを実現させたい。祖国へ戻りたくても戻ることの出来なかった移民1世には、常に「より良い明日を目指して頑張る」ほか生きる道がなかったのです

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(鉄道路線敷設に従事する中国人移民労働者)


こうした移民たちが、希望の大陸アメリカに到着したときに見たのは、ほかでもなく、あの「自由の女神」でした。そして、そこの台座には、詩人、エマ・ラザロによるこのような詩が刻まれています。


疲れし者、貧しき者を我に与えよ。

自由の空気を吸わんと熱望する人たちよ-----。

身を寄せ合う哀れな人たちよ。

住む家なく、嵐にもまれし者を我に送りたまえ。

我は、黄金の扉にて灯を掲げん。

常にあきらめず、そして臨機応変に


このような歴史の中で運命を自らの手で切り開いてきた自負のあるアメリカ社会ですから、当然逆境には負けない精神、つまりネバーギブアップの精神が力強く育まれることになります。また、それに加えて、苦境にあってもその場に応じて何とか生きるサバイバルスピリッツを備えているともいえるでしょう。また、このネバーギブアップとサバイバルのためのガッツは、その場にすばやく対応する「臨機応変な適応力」も同時に身に付ける土壌を生み出しました。アメリカ人は、移動を重ねてきた国民でもあることから、状況に合わせて移動を重ねることには非常に軽やかです。それが、自分の適性や能力に応じて色を軽やかに変える国民気質となり、そして不況下にあっては現在の経済レベルに応じた生活環境へと適宜移り行く生活スタイルを形成しています。これは、アメリカンモビリティと呼ばれ、社会も人も、常に状況に合わせて流動していくアメリカ社会独特のあり方を表現しています。


この不況下での人々の在り様を見ていると、この精神が立派に息づいていることを肌で感じることが良くあります。ひとつは、レイオフされたときの態度です。日本人の私などはその精神的なショックは計り知れないだろうと声をかけると「大丈夫。みんな同じ状況で苦労しているんだからね。起こってしまったことをくよくよ考えるよりは、明日からどうするかを考えるほうが先決!」ときっぱり言う人が多いのには驚かされます。その上で、どうやってクリエイティブに仕事を探すか、そして仕事を作り出すか?ここにアメリカ社会のバイタリティが秘められています。次回は、不況下にアメリカ社会が見せる、日本では見られない現象についてご紹介したいと思います。また、この前向きな精神がある限度を超えるとこれが「覇権主義」的傾向へアメリカ人を突き進めてしまうことにつながって行くのですが・・・この話はまた別の機会に。



 
 
 

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