前回に引き続き、今回も、英語を越えて上手くグローバルマネージャーとして多文化組織の中でコミュニケーションをとる方法に関するヒントについて考えてみたいと思います。ただ、ここでご紹介する方法は、意外に日本語でコミュニケーションをとる際にも有効な手立てとなるかもしれません。前々回お知らせしたように、日本で人と上手くコミュニケーションを取る方法を学んできた人は、アメリカでも英語のハンディを越えて心を通わせる事に成功しているケースが多いのは事実です。グローバルビジネスでも、人としての有り様が人との接し方へと影響し、それが言葉を越えて組織内で対人関係に影響を及ぼす事は間違いありません。
6. 紙やホワイトボードなどを駆使している
言葉だけでは伝わらない、また誤解を招く可能性のある内容の場合、図にして説明したり、要点を書き出したりして目に見える方法で説明を加える方法はとても有効です。この方法は、特に生産業の現場では、もう当たり前のように使われている方法かもしれません。私のクライアントのお一人は、常に小さなホワイトボードを持ち歩いて工場内を歩き回り、現場の人間にあれこれと支持出しする場合に活用するという人がいました。生産の現場では口ではなかなか伝えられない技術的な事柄を説明しないといけない事がとても多いのですが、図式化したり、また簡単なイラストで説明したりと非常に重宝していると話していました。
このアイディアは非常に優れています。言葉はある意味空気と同じようなもので、語られた瞬間から胡散霧散してまうという性格を帯びていますが、書き出す事によってお互いに視覚を通じて、はっきりと認識する事ができます。 最近発売されて話題になっているアップル社のiPadなどは、こういう使い方をする事で有効なコミュニケーションの補助ツールに使えるかもしれません。
このように、ミーティングなどにおいても、ホワイトボードを積極的に活用する方法はぜひお勧めしたいコミュニケーションの改善方法のひとつです。特に、お互いに竜しておかなければならない事項、数字、スケジュールの日時などは、参加者が見えるように書き出し相互確認をするとよいでしょう。この場合も、なるべく簡潔に箇条書きにする事が大切です。
7. 攻撃的な雰囲気を漂わせていない<感情の抑制ができる>
改めて言うまでもありませんが、攻撃的な人物に対して人は積極的にコミュニケーションを取ろうとは感じないものです。これは洋の東西、文化地の違いを問わず、人間の性分として変わる事のない普遍の事実です。しかし、どういうわけか、この大原則がビジネスの世界では忘れ去られてしまう事が少なくありません。特に日本では、攻撃的であることを「仕事熱心さ」や「ひたむきさ」、または「情熱」表れとして捉えたり、「上司の力強さ」や「指導力」を表す武器のひとつとして積極的とは言わないまでも、ある程度肯定的に評価する傾向が見受けられますそして、日本ではこのメンタリティが部下を「怒鳴る」「大声で叱る」という行動に駆り立てることも少なくありません。これは、同時に日本の「渇を入れる」という精神から来ている部分も多分にあるでしょう。
一方、アメリカと中心とした北米、メキシコでは、こういった「叱る」「怒鳴る」「渇を入れる」行為は、攻撃性の最たる行為としてみなされ、多くの場合、嫌悪を持って受け入れられます。特に、北米ではこういった行為は、ビジネスの場で感情を抑制できない幼稚な人物として映ることもあり、部下や同僚、ひいては上司との信頼関係そのものをぶち壊しにしてしまう危険性が大です。人をマネジメントする上では厳に慎むべき行為のひとつと言って差し支えありません。
多文化マネジメントにおいては、攻撃的な言葉遣い、態度、表情は、不の成果を生み出す事に作用しても正の方向に貢献することはあり得ません。特に自分の性格が短気で攻撃的、ある意味「キレ安い」ことを認識している人は、攻撃性が出ないようにトレーニングを受け、また自己抑制を心がける必要があります。
8. 忍耐強い、我慢強い<相手を決め付けない>
先の感情抑制にも通じる事ですが、多文化マネジメントにおいては「忍耐強さ」と「我慢強さ」は、成功の最大要因のひとつです。異なる文化背景を持った人たちと協業するわけですから、当然そこには、理解できない行動形態や思考が問題として日常的に浮上します。しかし、この文化を基本にした違いに対して忍耐強く接し、相手の立場にも立ちながら物事を解決する姿勢が取れるか否かが、多文化組織をリードするグローバルマネージャーの成功を決定付ける資質となるのです。
日本の基準が通じない、ビジネスのスタンダードが理解されないといって、相手を速攻で短絡的に評価したり、決め付けたりせず、その理由をまず探り、その上で辛抱強く相手とコミュニケーションを取ろうとする。このような態度は相手にも好意的に受け入れられ、信頼を勝ち得ることは間違いありません。
9. 違う人、コトへの興味と好奇心が強い
異なることに対して興味があり、好奇心の強い人は、それだけ「なぜだろう?」と考える力が強い事をうかがわせています。この、「なぜだろう?」と考える力こそ、異文化のギャップを生める力と考えてもいいのではないでしょうか。そこで冷静に物事を見据え、正確な知識と客観的な観察を加えることで、事実に基づいた判断を下す事が可能になります。外に対する興味の薄い人は、残念ながら自分がすでに築き上げた世界に留まることを良しとして、そこに安住してしまうことも多いでしょう。残念ながら、このメンタリティでは多文化組織を積極的にリードすることはできません。
相手に対して興味があり、好奇心があるからこそ、相手を知りたいという気持ちが生まれる。その結果として、相手と積極的にコミュニケーションを取ろうとする力が生まれるのです。こういう意味では、グローバルリーダーは、外の世界の価値観に対して大いなる好奇心と興味を抱いた野次馬根性に満ちた人こそが、ふさわしいともいえるでしょう。
10. 日本 vs.アメリカというような白黒の対立の図式で物事を見ない
私たちは常に自分の行動規範や価値観を基準にして、相手を判断します。これは人間の持つ、ある意味当然の性質とも言えるでしょう。しかし、これがグローバルビジネスや多文化組織では大きな落とし穴となることが往々にしてあるのです。多文化組織では、行動規範が、それぞれのお国柄や地域特性などに左右されることが多々ありますが、自分の常識に合わないからといって、「だからアメリカ人は~」と十把ひとからげに見てしまうのはとても危険です。ここで改めて認識しなくてはならない事実は、私たちが共通理解として認識していると信じている事柄が実は極めて日本的な文化土壌で培われた、日本独特のものであるケースが多いということです。自分の常識が日本だけで通用するものなのかもしれない、という認識を持っていれば、ここで「だからはアメリカは!」という、決め付けのメンタリティを避ける事も可能です。この事実を認識している人は、きわめて客観的に異文化での価値観や規範の違いにアプローチできますが、一方でこの認識が曖昧だと、違いを感情的に「否定」もしくは「優劣」といった対比の構造でしか違いを捉えられなくなります。
世の中にはこういった論調で他文化を批評する事が少なくありません。ひどいケースになると、日本のものさしをあたかも国際基準のように唱えてそこに合致しないからといって相手の文化を「民度が低い」などと蔑んだように語ることすら見られます。このように文化を対立構造で見るメンタリティは、自分の中はもとより、組織の中に二極化の対立構造を生み出す結果となります。そして残念なことに、ここから決して「理解」と「協業」が生まれることもありません。
「尊重」と「対話」こそが協業とシナジーを生み出す
相互理解を土壌とした協業と、そこから生み出すシナジーを可能にするためには、こういった白黒の対立のメンタリティは百害あって一利なしです。お互いをまず理解しあおうというメンタリティは、ここに述べた10のスキルをを駆使した「対話」こそが可能にするものであり、そしてその対話を生み出すためには相手を「尊重」する態度がいかに大切かを、再認識する必要がありそうです。
さらに、日本人の特性として「忍耐」と「我慢」が取り上げられることも多く、またそれを自分たちの特徴のひとつとして自負している人が多いにも関わらず、国際舞台ではこの性質を最大限に活かしていない人が少ないのは残念なことです。日本人がグローバル社会で成功するために、国民性のひとつとして持っているこの性格を、人材マネジメントにおいてもっと活かすことができれば、日本企業に対して人々から得られる内的な尊敬の念はより大きくなるでしょう。
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